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公共機関における効率性の追求

プリンス・オブ・ウェールズ病院
名誉会長
アレン・チャン教授へのインタビュー

香港プリンス・オブ・ウェールズ病院の広大な敷地内の廊下を辿っていくと、この病院の会長室前にすぐに辿り着くことができます。1993年より短期間この病院での経験を経て、その数年後の1999年、チャン教授は組織のトップとして再びこの病院に着任しました。しかしその後の道のりは、会長室への道のりとはほど遠い、非常に複雑で困難なものでした。チャン教授は、香港初の大規模なヘルスケア集団 -既存の7つの病院を連携させ、香港の人口7万人における20%の国民の医療ニーズを満たす総合的な医療集団― の運営を任されることになったのです。

それぞれに長年独立して運営してきた複数の病院統合には、乗り越えなければならない課題が山積みでした。7つの病院それぞれが、強い意志と考え方を持った人々によって運営されており、既に独自の体制を確立していたのです。どのように患者数を数えるかといった非常に小さな事柄でさえ、一つ一つの解決が必要とされました。しかし、この連携によって得られると予測される利益は相当のものでした。第一に、コスト面の大幅な削減です。統合による経済規模を始め、様々な資源のシェア、又、受け入れ態勢を病院間でサポートしあうことより、より体系的な患者ケアも可能になります。

今年の10月までは、とチャン教授は言います。「予算と医療活動はそれぞれの病院レベルに委任されていました。つまり、各組織の部門トップが予算をコントロールしていたのです。それによって、組織はある程度独自にそのサービスを決定することが出来ました。しかし同時にこれは、彼らの計画の視野を狭めることでもあったのです。結果として、より効率の良い部門のみが、彼ら独自のサービス向上のために質の高い資源を使い切り、香港の医療サービスコストは急激に上昇してしまったのです。

「それによって、いくつかの部門は配分を受けられず、又、実際の医療活動の処理件数が事前の計画を上回った組織では、追加の資源が不足する事態に陥りました。」チャン教授は言います。「そして第2番目に、各部門が切り離された状況になりました。彼らは自分達独自の医療機器や基盤となる設備を要求しましたが、実際にはシステム内に同種類の設備設置が頻発し、その多くは現場で活用されないものとなってしまったのです。結果として、これらは無駄になってしまったと言えるでしょう。

医療サービス部門からの、この財政的な需要の増加に応えきれなかった香港政府は、一人当たりの医療費用を算出し、地域の人口に基づいて予算の分配を行いました。この地域的区分による医療資金の分配は、より組織間が密接し、一貫したグループシステムを作り上げることに寄与しました。その結果、政府の医療機関は、医療資金の適切な分配の為、現在多くの欧米諸国で適用されている医療システム、クラスターコンセプトを導入することを決定しました。香港全土を5つのクラスターに分割し、それぞれにおいて、患者に対する総合的な医療ケアの提供を可能にするというものです。

「このクラスターシステムの実施、及び様々な重複を防いで無駄を省く為、各組織の独立した意思決定プロセスを簡潔化する必要性がありました。」チャン教授は言います。 「当初このシステムには、地理的な地域性に固執したなバリアを取り除き、実際の運営機能に基づいてクラスター全体を認識するという合意がありました。各サービス期間がそれぞれの仕事量と機能を調査測定し、無駄を最小限にした上で、でき得る限りの最高のサービスを提供する方法を提案書として作成しました。

チャン教授は又この機会を、医療機関の既存手法を完全に変革する千載一遇のチャンスであるととらえました。「クラスターシステムの導入によって、私達はこれまでとは異なったマネジメントの方法論を試みることが出来たのです。」 チャン教授は、病院の戦略を明確化するため、1993年、香港を拠点とする戦略実践コンサルタント、ストラテジック・シンキンググループ(STG)のサポートを求めました。進行中のSTGとの取り組みは、クラスターシステム実践の基礎構築に大いに役立ちました。

チャン教授の行った大きな変革の一つに、医者や看護婦達が業務上の課題や要望を提案し、議論をするための委員会の結成があります。しかし、大きなクラスターにおいてこの委員会を機能させるのは難しく、そこにはトップレベルからのある程度のコントロールが必要であるということをチャン教授は気づいていました。

彼は言います。「高いレベルの知識や経験を持った多くの人々が運営する各部門、そしてそのような部門を多数抱える総合病院において、意見の相違や不一致は避けることの出来ない課題です。」 故に、議論の進行を任される人は、議論の進行や結論合意に至るプロセス形成の経験を持ち、又、政府と委員会双方からの視点で全体をとらえることのできる人が必要でした。チャン氏は言います。「予算の無駄をしない、不必要な設備の重複を避ける等のいくつかの重要な条件、又、何よりも患者を優先することを明確にし、皆の意思確認が必要でした。

しかしチャン教授は、それらの条件によって、議論の参加者達が創造性を失ってほしくはありませんでした。「守るべき条件の範囲内で実行可能な、いくらでもクリエイティブなアイデアを提案するよう皆に呼びかけていました。賛成できない点は幅広く皆で話し合い、会の最後に投票方式で結論に至りました。この委員会で私達は、業務上の非協調的で身勝手な行動に対処するメカニズムを作り上げました。これを理解すれば、多くの人は協力して業務を行うようになります。もし前線に立つ人々が協力して業務にあたらなければ、彼らは組織の意思決定のプロセスから除外されることになるでしょう。」まだ初期段階ではあるが、これまでのところ、システムはうまく機能しているとチャン教授は言います。 「いくつかの小さな課題はあるものの、今までのところ身勝手な業務行動を是正することができています。しかし、このクラスターシステムはまだまだ新しく、実施開始から8、9週間しか経っていません。まだ私達には、よいところしか見えていない状況なのかもしれませんね。

チャン教授は、各クラスター内で提供されるサービスの質を更に向上したいと願っています。「予算の範囲内で、出来る限りの高いサービスを提供することが私の目標です。」彼は言います。「無駄の節減を追求し、そこで生まれた資金をコミュニティーの福祉事業向上の為に活用したいのです。同時に、新しいサービスの学習、トレーニング、リサーチ及び開発の向上も計画しています。彼は“常にサービスの質を査定、コントール、そして問題解決を行うことのできる効果的な品質コントロールシステム”の導入を目指しています。そして勿論、この“品質”とは、複雑な技術面だけをさしているのではありません。」彼は言います。「この意味するところは、医療業務の全ての段階、つまり各医療サービスへのアクセスのしやすさから、スタッフのサービスの迅速さ、フレンドリーさに至るまで、全レベルに目を向けた上での品質です。

望んでいます。「それによって、他に出来ることがあるにも関わらず、複数の人々が同じ仕事を取り合うように行うこともなくなるでしょう。」彼は言います。「現状の、無駄のある病院機能を、完全に有効活用したいのです。しかし、現在の経済状況を考えると、追加の資金提供を受けるのは難しいでしょう。だからこそ今私達ができること、すべきことは、現在の業務上の無駄を見つけ節約することで、その余剰金を新たなサービスに活用するのです。」チャン教授は、業務の効率を上げることにより1から2%のコストの削減を見込んでいます。「私達が新たなサービスを行う部門に、政府が目を向けてくれることを期待しています。そうすることで、将来的に追加の資金提供を受けることも可能になるはずです。

このクラスターシステムは香港初の試みであり、それが彼の掲げる多くの高い目標の達成を困難にしています。「私達が行う、この香港初のクラスターシステム導入達成の為には、未知数の分野での挑戦は避けられないことです。」チャン教授は言います。それだけではありません。医療専門分野で長年活躍してきた教授は、マネジメント管理の知識や経験なしにこの責務を担っているのです。この最大の挑戦を“これまでしたこともないことへの挑戦”と彼は表現します。その上で、彼は彼の直感と周りからのアドバイスを大切にしています。彼は言います。「何よりも大きな挑戦は、既存運営体制の確立した各組織に大きな方向性の変革を行うことであり、それは実際の業務上の課題も引き起こします。私は、長く安住してきた状態から彼らを引っ張り出さなくてはならないのです。勿論、私自身も含めて。

そして現状はどうでしょうか?チャン教授は、成果の是非を図るには、まだこの試みは初期段階だと言います。「今までのところ、それ程大きな課題に直面することもなく、各病院からこの制度への協力を得られています。」教授は言います。「サービスの概要は理解され、委員会システムも大きな問題なく機能しています。全てのサービスは計画通りに前進していますよ。」コスト面に関しては、まだ結果について言及するのは時期尚早ではありながらも、「人員の削減ができないので、コストの削減はかなり難しいことが分かりました。しかし、既存の設備や資源を更に有効活用できるよう工夫を始めました。」とチャン教授は言います。「複数の組織でサービスや設備の統合や改善が行われ、現在計画中のいくつかの設備を除けば、殆どの組織で新たな試みが開始されています。又私達は病院間のコミュニケーションシステムも開発し、各病院の事務手続き機能の多くを統合し、一極集中したシステムを確立しました。人材管理や計画、在庫調整等のインフォメーションも中央集中で管理できるようになっています。小さなことからでも、できることは沢山あります。

様々な病院を一つの巨大クラスターとして機能させることは、彼にとって大きな挑戦でした。「まるで戦場の部族になったような状況でしたよ。例えば、アフガニスタンの部族のような。」彼は言います。「しかしこれまでのところ、 ―アフガンの戦場とは違ってー 人々は、この変革が皆にとってよいものだと信じてくれています。だからこそ人々が協力し、達成に向けて力を貸してくれているのですよ。


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